第1章

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とある美術館で「古代ローマ美術展」が3日間開催された。ボクは場内警備のアルバイトとして参加したのだが、さほど広くは無いスペースに次々と絵画や彫刻が運び込まれ、業者の手によって夜のうちに設営準備は完了した。 三連休を利用したイベントではあったが特に目玉となる作品がある訳でもなく、それでも一日連日100名程の来場客を記録した。 その中で一人で2日間連続で通い続けた男の子がいた。その子は決まって彫刻をジーッと眺めていた。 こんな小さい頃から美術に興味を持つなんて、これは将来ミケランジェロに匹敵するような芸術家になるやも知れないな……冗談半分だが思った。 3日目もその子はやって来て、彫刻を飽きもせずにジーッと眺めている。 やがて閉館時間の午後6時が近付き、閉館を知らせるアナウンスが聞こえた。 すると、その子が突然彫刻に向かって話し掛けた。 「お父さん、もう帰ろうよ。」 すると、その子に話し掛けられた彫刻がボソッと呟いた。 「まだあと少しだよ。」 どういう事情でそうなったのかは知らないけども、3日間彫刻になり切った パントマイムの人を、ボクはスゲエと思った。
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