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少しずつ少しずつ、毒を盛るように
離れられないように仕掛けてきたのは俺の方なのに
恵美の涙と言葉に、今更その罪と責任の重さに気付く
ただ、夢中だった。
夢中にさせることに夢中で
余裕なんて少しもなかった。
ただ、それなりの年だけは重ねたもので、余裕に見せることだけが随分と上手くなっただけのことだ。
その皮も、今綺麗さっぱり取っ払われた。
「……藤井さんの余裕のないとこ初めて見ました」
「うるさい。帰る」
まるで弱味を握られたような気分だ。
それでも、今は取り繕う場合でもなく悪態だけついて背中を向けた。
早く。
早く、家に帰らなければ。
あんなに早い時間に家を出たりしなければ、すれ違いはしなかったのに、と。数時間前の自分に舌打ちをした。
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