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私が彼の不機嫌の理由を知ることになったのは、その数週間後だった。 何かやたらと「休み取っとけ」と言うと思ったら、その一週間前になって旅行会社から送られてきたのは遊園地のフリーパス付きの旅行券。 以前に遊園地に行きたいと私が言ったことを、覚えていてくれたのだ。 泣いて仕事に向かったあの日、彼なりに何か気まずかったのか罪滅ぼしのつもりか……通りがかりの旅行会社で、衝動的に予約してきたらしい。 それなのに、先に萌々香ちゃんと行く約束をしてしまっていたから、拗ねて不機嫌だったという……。 ……ほんと、子供みたいなところがある。 萌々香ちゃんと行くのと、二人で行くのとでは全然違うのに。 「覚えてなかっただろ」 「お、覚えてたわよ、ちゃんと」 「嘘つけ」 また拗ねて仏頂面の彼の傍に近寄って、思い切り背伸びをする。 肩に手を乗せ、耳元で囁いた。 「ありがとう。……すき」
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