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 暦の上では春だけど早朝のホームは寒い。首を竦め携帯ニュースを見ていると、隣から小さな声がした。   「あ、……沢木くん、おはよお」 「よお」  同期の小坂だ。相変わらずボーッとしてる。髪は寝癖がついてるし、スーツの背中にはシワが入っている。社会人五年目になるのに、いつまでも新入社員みたいなおどおどした感じが抜けない。総務課で後輩から使いっぱしりにされてないか心配になる。  無口。存在感がない。暗い。地味。大人しい。目立たない。覇気がない。いろんな形容詞を持っている同期の小坂。これは俺が言っているわけじゃない。俺の所属している営業企画部の連中の言葉だ。  小坂と俺は地元も一緒。大学も、就職した会社も同じだった。腐れ縁? ああ、そうかもしれない。なにしろ高校の時からの付き合いだ。  でも、まぁ、同じくらいの成績だったから、たまたまといえばたまたまだ。  会社の廊下で小坂とバッタリ会うと、俺が笑顔で「よお」と声を掛ける。小坂はいつも微妙な作り笑いで挨拶を返す。それを見て、同じ部の連中があとで小坂をボロカス言うのだ。  俺は「おいおい。俺の旧友だぞ。あんまり言うなよ」と笑いながらたしなめる。  小坂は昔からクラスで浮いた存在だった。イジメの標的になりかかった事も何度かある。その度に俺は「バカなことはやめろよ」と、くだらない遊びにストップを掛けてきた。  でも、もう大人なんだ。いい加減に小坂も「このままじゃいけない」と気づかないと。
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