2、ローレライと引っ張られる少年

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「淳、この町の高校じゃダメなのか?」 夕飯を囲みながら何か言いたげに俺をチラチラ見ていた父さんがついに話を切り出した。俺はちゃぶ台の上のアジの刺身にワサビをちょんちょんと塗って醤油につけて口に運んだ。 「あんまり良くない。だってここじゃ生徒も顔見知りばっかりだし、部活も力入れてない。外に行きたいんだ」 黙って野球中継を見ていた爺ちゃんが、ほっほと笑って父さんに言った。 「お前も同じこといいよった。血は争えないな」 「父さん!」 父さんが爺ちゃんのことを“父さん”と呼ぶ。それは当たり前なことなのになんだかしっくりこなかった。 俺にとって爺ちゃんは爺ちゃんだし、父さんは父さんだ。自分がいつか“父さん”と呼ばれる日が来るかもしれないなんて、想像もつかない。 ワーッと歓声がしてテレビに目をやると、爺ちゃんが応援していた方の球団のピッチャーがホームランを打たれたところだった。 「ああ、くそ」 悔しげに膝を叩いた爺ちゃんは白ごはんに冷たい麦茶をかけて、サラサラと口にかきこんだ。醤油に浸したカブの漬け物口に運んでいく。 そして茶漬けを飲み込んだ後で爺ちゃんはそっけなく言った。 「別にお前らみんなで県外に引越したっていいんだぞ。俺はまだ元気だし、同居を続けなきゃならん理由もない。俺はこの町にいたらちっとも寂しくないし、それよりもこんなチッコイ淳が1人で出ていく方が心配だろう」 チッコイは余計だと思ったが、爺ちゃんは俺の見方をしてくれてるようなので俺は口を挟まなかった。父さんは腕組みして、ううんと唸った。 「それはそうだけどさ……でもできたら俺は淳と一緒にずっとこの町で家族で暮らせたら……」 なんだか珍しく煮え切らない様子の父さんはそう言いながら、母さんに視線をやった。 母さんは目をくりくりさせながら、父さんに言った。 「でも私たちの都合で淳にやりたいこと我慢させるのはよくないよ。私は引越してもいいよ」 母さんがそう言うと、父さんは顔をしかめて「それはそうだけど」とつぶやいた。どうやらこの町に残りたがっているのは父さんだけみたいだった。 いくらこの小さな町出身でも、母さんも都会の方がいいのだろうかと漠然と思った。母さんは若い。俺の父さんと同じ40代のはずなのに見た目は30才くらいに見える。
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