第1章

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マネージャーの隣に座っている女の人はおもしろい素材を見つけたように、俺を見てクスクス笑った。 人の顔を見て笑うんじゃねぇっ。 そんな気持ちを察したのか栗色のウエーブを揺らして言うのは… 『マネージャーからあなたをスタイリングしてくれって頼まれたから来ているのよ、笑って失礼だったかしら。 良い素材だと思って。 矢神佳那子です、よろしくね』 『あっ、どうも。 こちらこそ…睨んですみません』 オーダーを済ませ俺以外の3人は顔見知りらしく、仕事の話をしていた。 退屈、スマホ見て良いかなぁ? 『佳那子くん前の仕事ぶり良かったよ、先方に好評でね。次のオファー来てるんだけど入れて良い?』 『良いわよ、詳しく決まったら企画書と共に事務所に送って』 『伝えとくよ、そういえば拓也くんも活躍してるじゃない』 『あぁ、拓也ねぇ。 しばらく連絡してないけど元気にしてんのかしら』 『おたくら姉弟でしょ、連絡取り合わないの?』 『んーそうねぇ、お互い忙しいし。雑誌やテレビ関連に松本っていう名前が出てるのを確認するだけかしらね』 『喋りは一緒だけど拓也くんは男だし、彼女作んないの?』 『いろいろあってね、言い寄ってくる女とは仕方なく付き合ってみるけどすぐに別れてるわ。 1人が良いんだって。 プリンスホテルの成瀬とはK出版社にくる度に会ってるけど、成瀬が女ならね。お似合いなんだけど』 そんな話を聞いていると、ジュージューと香ばしい匂いをさせたステーキが運ばれてきた。 テーブルへ常備されている紙のエプロンをした4人は、プレートの丸く囲われた紙を取られたステーキに夢中になり完食した。 サーロインとヒレの微妙な差の味は家じゃ食えないかな。 『柔らかくてジューシーで美味しかった~』 それを聞いてスタイリストの矢神佳那子さんは爆笑した。 ステーキのプレート・ご飯に味噌汁・サラダ。 食後のアイスクリーム付きのセットメニュー。 この店の売りらしい。 『さっ、行こうか』 マネージャーと叔父さんの声に我にかえる。 『やだよ、行きたくねぇ』何を今さら… っていわんばかりに、叔父さんは俺の腕をガッツリ掴んで店内を出る。 キャッシュで払うマネージャーがウエイターに軽く会釈をし俺の横にきてニンマリ笑う。 『いさぎよく(笑)』 叔父さんの車で何回か側を通った事のある芸能事務所に入った。 3階の社長の応接室に通されじろじろと顔を見られ落ち着かない。
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