2人が本棚に入れています
本棚に追加
狩野たけし、という名前の名詞をおずおずと受け取りお辞儀をする俺。
『狩野たけし芸能事務所の社長です。
こじんまりしてるけどくつろいでいってくれたまえ。園生からいろいろ聞いて興味を持っちゃって。
会ってみたいなって』
『はぁ』
『君の余興で歌った映像を見てね(笑)』
映像?余興?
『叔父さんっ!誰にも見せないっていうから女装して歌ったのに、ヒドイぜっ』後ろに立つ叔父は、落ちついて…といわんばかりに両肩を叩いた。
『狩野芸能事務所の連中しか見せてないから安心しなって』
『そういう問題じゃっ…』
コンコンとノックの音がして女性スタッフが用意が出来たと呼びにきた。
なんの?
短い髪にし見た目より若く見える狩野たけし社長が頷き、叔父さんと目配せをする。
肩までの茶髪のマネージャーが上着を脱いで俺をチラリと見る。
『行くぜ』
40分後、同じような髪質のカツラをつけリボン。
ブルーのフワフワドレスにペタンコ底の黒い靴。
俺は身をこわばらせ最後の仕上げだといわんばかりにピンクかのルージュを塗られた。
『(笑)かわいいわぁ、うちの拓也が惚れないかしらね。1枚撮って良い?』
『撮るんじゃねぇ、いや、撮らないで下さい』
スマホでパシャリッと撮影の音が矢神佳那子さんをはじめ、あちこちから聞こえてくる。
『だから嫌だっ、ったんだ』
俺はスタジオを飛び出し1階の出口を目指し走った。
くそぅ、偽の綿の胸が邪魔なんだってーの!
女子ってのはこんな邪魔なものと一緒に体育祭をしていたのか?
見る側はユラユラ揺れて大きい方が良いとは思っていたけど。
ドンッ…
誰かとぶつかった拍子に倒れる俺、手を差し出す誰か。
『危ないだろーが!…んっ?おまえこの狩野芸能事務所にいたっけ?』
『誰?』
たしかテレビで見た事ある顔…。
思考力低下するくらいの…キス。
えぇ?キスぅ~!
離して…
離してってば…
手を差し出していた男性はグイッと俺を起こしながらハグをし、唇を奪ったんだ。
片想いのあの子とキスをする事を夢見ていたのに!
園生叔父~…
すべての原因はあんただろう!
ゲラゲラと笑う声が頭上から聞こえてきた。
『俺、おまえに一目惚れした!付き合わない?』
えぇえ~!
俺は俺は身をひるがえし逃げるように事務所を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!