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そんな偶然が重なり、 こうして一朗のライブを観に来る事が 叶ったのだったけれど、 慣れない場所や人に圧倒されて、 居心地は決して良いものじゃなかった。 「かえではミルクティで良かったよな?」 「うん。ありがとう」 まつ毛を瞬かせながら楽屋内を見回していたかえでは、 差し出された紙コップを受け取り、 その視線を隣の椅子に座った一朗へ向けた。 「おばさん親戚ン家に行ってんだって?」 「うん。じゃなきゃ絶対ムリだもん」 「ははは。そらそうだ」 君島家の事情というヤツをあらかた理解している一朗は、 納得したとばかりに笑って「箱入り娘はタイヘンだな」と、 かえでの頭をぽんぽんと叩く。 これは一朗がかえでを宥めたり、 褒めたりする時の癖のようなものだ。 遡ると幼稚園の頃からの記憶が残っている。 進歩がないなぁ…… かえではミルクティの入った紙コップの中に ため息をひとつ落とした後、 傍らの一朗へ視線を向けた。
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