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昼間は無機質なシャッターを晒している 生花店のガラスの向こうには、 まるで競い合うかのように 華やかに咲き誇った生花が飾られ、 斜向かいの果物屋の軒先に陳列されている果物には、 スーパーで売られる倍以上の値札が付いている。 もくもくと香を焚く占い小屋や、 一風変わったアジア風の雑貨店。 シルバーや革製品を売っている店の店員は、 これで客商売が成り立つのかと思うほど 厳つい風貌をしていた。 5月の夕暮れの風に乗って薫るのは 秘めやかで、どこか妖艶さえも感じる匂い。 中学3年のかえでにとっては 目に飛び込んでくる色の氾濫ばかりでなく、 その香りさえも新鮮で刺激的に感じられて、 徒歩でも20分程度しか離れていない 西神南町に暮らしながら、 どこか遠く知らない街に来てしまったような 不安と期待とが入り混じる思いを抱きながら 人の流れを辿っていた。
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