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「あ、コレ。きっとイチくんだ」 スピーカーからギターソロが流れる。 いつだったかかえでは、 『東京に行ってプロになる』と言った一朗を、 泣いて引き止めた事がある。 その頃まだ小学生だった一朗は、 何とかという海外のバンドに憧れて ギターをかじり始めたばかりで、 バンド活動もまだやってはいなかった。 当然、小学生が単身で上京など出来る訳がなく、 上京したからといってプロになれる訳でもない。 幼い頃から大人びていて超現実的な彼の弟は、 何かと夢見がちな兄の戯言ととり合いもせず。 彼の両親もまた然り。だったけれど。 「イチくんはずっと頑張ってたんだね」 周りの大人に笑い飛ばされようと、 呆れられようと一朗は夢に向って歩いていたのだ。 昨夜のようなライブを見せられたら、 かえでも彼の夢を応援せずにはいられない。 次に一朗が『東京へ行く』と言ったなら、 どんなに淋しくても、 もう引き止めることは出来ないだろう。 
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