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いつも2つ年上の 一朗の背中を追いかけていた。 けれどそれは 手を伸ばせば触れられる距離だった。 優しい彼は、 時に彼女に合わせて隣を歩いてくれた。 だからといって かえでが一朗に追いついた訳ではない。 どんなに早足で歩いても 2人の距離が縮まる事はなかった。 それでも良いと思っていた。 気まぐれに肩を並べてくれる 彼の背中を見つめていられるなら、 ずっと今のままで良いと思っていた。 それなのに―― 彼はいつの間にか遠い所を歩いていた。 そしていつか、 手を伸ばしても触れる事の出来ない所へ行く。 引き止める事も 付いて行く事もできないかえでを置いて。 いつの間にかスピーカーから出る音は消えていた。 瞼を上げるとレースのカーテン越しに 淡いオレンジに色付いた射光が差し込んでいた。 夜には両親が戻ってくる。 それを考えると、 急に現実へ引き戻される思いがした。 きっと何事もなかったかのように、 いつもと変わらない日常を繰り返して。 やがて昨夜の感動も全て、 色あせた思い出に変わっていくのだろうか? そう思うとまた、瞼の裏側が熱くなった。
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