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「浅井さん。バイクじゃないですか」
「んなの。押してきゃいいだろ?
何なら2ケツでもする?」
「原付は2人乗り禁止ですよね?」
「なんだ知ってんじゃん。
じゃあ歩くしかねーか。
かえでチャンは規則違反しない子だもんな」
非難めいた視線も、
ささやかな抵抗も、
一切亮には通用しないと悟ったかえでは、
ここで問答を繰り返すより、
一刻も早くこの場を離れる方が
賢明な選択だと判断して、
彼の言葉に従うことにした。
テーブルにつくと亮は、
レジ袋から薄いCDケースを取り出して
かえでに差し出した。
「はい。CD」
「ありがとうございます」
受け取ったCDを大事そうに両手で持って、
かえでは亮が無造作にテーブルに置いた
レジ袋に目を向けた。
袋にプリントされている赤いロゴに
ふっと表情をが緩む。
「マルキヨだ……」
彼女の自宅近くのスーパーの袋だ。
「そう言えば浅井さんって、2小なんですよね?」
「うん。家は奥村文具店の斜向かい」
「わっ……近いですね。私のウチ。イチくん家のお隣です」
「一朗に聞いた。よく前の道通るし俺。マルキヨ行く時とか」
「よく行くんですか?」
「行くさぁ。マルキヨは庶民の味方だぜ?」
亮は首の後ろを掻きながら喉の奥で笑いを漏らす。
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