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それにしても――と、 かえでは階段を見下ろした。 彼の辞書に紳士的という文字は存在しないのか? 賢二は逡巡するかえでを気遣う素振りさえ見せずに、 無駄に長い足で、 暗闇の更に深層へと続いているような階段を、 慣れた様子で下りていく。 親に内緒だという事を気にして渋る彼を 拝み倒して連れて来てもらった手前、 かえでもここで『怖気付きました』とは、 ちょっぴり―― イヤかなり言い出し辛い。 それ以前に、 この機会を逃したら 次はいつ来られるかも分からない。 かえでは唇を引き結んで覚悟を決めると、 すすけた壁を伝いながら、 薄ぼんやりと照らされた階段を そろりそろりと下りていった。 階段を下りきった先にあったのは当然、 暗黒の世界ではなく【ガード下】への扉だ。 チケットブースに居た坊主頭の男は賢二に気付くと、 鎖のぶら下がった唇の端を上げて2人を中へ通してくれた。
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