100人が本棚に入れています
本棚に追加
店内のスタッフと一言二言交わした後、
賢二は勝手知ったる様子で、
ドリンクカウンター脇の扉から奥へと入って行く。
ビールケースやダンボール箱が積まれた狭い通路を抜けた先、
丁度ステージの脇に位置する辺りにあったのは――
どうやら楽屋のようだ。
アルファベッドの殴り書きされたA4の紙が
ドアにセロテープで止めてある。
かえでは、お世辞にも綺麗とは言えないその筆跡を辿った。
「BLACK‐NOISE……?」
癖のないセミロングの黒髪をさらりと揺らして首を傾げると、
それを肯定する賢二の声が耳朶を打つ。
「そ。ブラックノイズ。略してビーエン」
かえでは小動物のような丸い瞳で賢二を見上げ、
確認するように繰り返した。
「ビーエン?」
「そ。ビーエヌ……つったら笑われるから気をつけるように」
そう言って口の端を上げた賢二の切れ長の双眸が、
ふと何かに気付いた様子で通路の先へ向けけられた。
最初のコメントを投稿しよう!