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店内のスタッフと一言二言交わした後、 賢二は勝手知ったる様子で、 ドリンクカウンター脇の扉から奥へと入って行く。 ビールケースやダンボール箱が積まれた狭い通路を抜けた先、 丁度ステージの脇に位置する辺りにあったのは―― どうやら楽屋のようだ。 アルファベッドの殴り書きされたA4の紙が ドアにセロテープで止めてある。 かえでは、お世辞にも綺麗とは言えないその筆跡を辿った。 「BLACK‐NOISE……?」 癖のないセミロングの黒髪をさらりと揺らして首を傾げると、 それを肯定する賢二の声が耳朶を打つ。 「そ。ブラックノイズ。略してビーエン」 かえでは小動物のような丸い瞳で賢二を見上げ、 確認するように繰り返した。 「ビーエン?」 「そ。ビーエヌ……つったら笑われるから気をつけるように」 そう言って口の端を上げた賢二の切れ長の双眸が、 ふと何かに気付いた様子で通路の先へ向けけられた。
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