その男、寡黙につき

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 その男とは、たびたび顔を合わせていました。  最初に出会ったのは、忘れもしない二月の終わり。空はあいにくの曇りもようだったと記憶しています。何故、正確に覚えているかというと、その日が私の十七回目の誕生日だったからです。  身寄りのない私は、その日、施設から外出許可をもらい、隣町へと買い物に出かけた帰りでした。電車へ華奢な身体を滑り込ませましたが、時間帯が悪かったのか、丁度、帰宅ラッシュに巻き込まれてしまい、やっとの思いで座席を確保しました。  優先席を陣取ったので、労働に疲弊したサラリーマンの方に対して多少の罪悪感は残りましたが、私だって足を棒にして歩いて疲れていたのですから、疲労度はどっこいといったところです。
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