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ドーナツを買った。
チョコレートだの、ストロベリーだの、パウダーに塗れたそれだのが入った袋を左手に提げ、店を出る。
自動扉を過ぎたところで少女か幼女か微妙な年齢の女の子と目が合った。まあ、月曜の昼前にこんなとこにいるぐらいだから、学齢には達していないのだろうと見当。
すでに彼女の目は袋に釘づけ、心がその中身に及んでいることはもはや明らかだった。微動だにしない瞳が昨日ユーチューブで見たお菊人形を思いださせる──怖(こえ)え。
ドーナツ、好きか?──気を取り直して聞いた。
うん──しゃがみこみ、お菊な彼女の胸前に袋を差しだす。
条件反射的に伸びてくる浮腫(むく)んだ……いや、子供特有のぷくぷくした手。たこ糸で縛りあげたらハムかチャーシュー──いやいや、そんなことはどうでもいい。
お菊の諸手がパーからグーに変わる。緩めていた指に力を入れ、ドーナツ袋の落下を食い止める俺。引っこめられたお菊の腕が外部からの刺激に反応するイソギンチャクを連想させた。
──どうした?
縦横無尽にかぶりを振りまわしつつ、にたつきつつ、諸手を背中へ隠しつつ、体を捻りつつ、つつ、つつ──戸惑いと遠慮をボディーランゲージするお菊。
こんなに小さくても女ってのは面倒臭えんだな、なんてことは顔にも口にももちろん出さない。俺は笑顔になってるかどうかわからないそれをしながら、彼女の目の高さで袋を揺らした。
イソギンチャクは目論みどおり、今度はそいつをわしと掴んだ。お菊はドーナツを。俺は笑顔とありがとうを受け取った──取引成立。
店内に取って返し、似たようなチョイスで五個、またドーナツを注文した。
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