ぶっ殺すぞコノヤロー

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私は今、彼と別れようかと悩んでいる。 何故かと言うと、彼の口癖が 「ぶっ殺すぞコノヤロー」なのだ。 そんな暴言を吐くような乱暴な男とは絶対別れた方が良いと思うでしょう? でも乱暴じゃない。 優しいのだ。 ある時は 「おい、花買ってきたぞ」 誕生日でも記念日でも無いのに。 ぐいっと差し出されるデンファレの花束。 私の好きな花を覚えていてくれたんだ。 「ありがとう。どうして?」 「どうしてじゃねーよ。なんとなくだよ。ぶっ殺すぞコノヤロー」 …なんで? 二人でバスの席に座っている時 大きな荷物を持ったお婆さんが乗って来た。 彼はすぐさま 「こちらにどうぞ」と言って席を立つ。 やるじゃん、と彼をちょっと誇らしげに見ていると 「オメーもどけよ。お婆さんが荷物置けねーだろ。ぶっ殺すぞコノヤロー」 なんで私にだけ厳しいの? 外で食事をした時 料理を頼んだ後、やっぱりアレも食べたいなと迷いながらメニューを置こうとしたら、コップに引っ掛けて水をこぼしてしまった。 さあ言われるぞ…と身構えていると 彼はサッサとおしぼりでテーブルを拭き始める。 「言わないの?」 「何を?」 今日は機嫌が良いのかな?それなら 「あのさ、これも美味しそうじゃない?頼もうよ」 「食いきれねーだろ。次にしろよ。ぶっ殺すぞコノヤロー」 『ぶっ殺す』の起爆スイッチが分からない。 ヒールが折れて倒れてしまった時 「おい、大丈夫か?」 「う、うん。大丈夫」 「大丈夫じゃねーよ。ぶっ殺すぞコノヤロー」 どういう事? 「…痛っ。足を挫いたみたい。おぶって」 両手を伸ばす私。 「おぶってじゃねーよ。スカートめくれんじゃねーか。ぶっ殺すぞコノヤロー」 彼は私の伸ばした手を避けて横に周り、背中とひざ裏に手を入れた。 え?コレって…お姫様だっこ? ふわりと身体が持ち上がり、怖くて彼の首に手をまわす。 嬉しいけど、皆がこっちを見ているよ。 「ちょっ、ちょっと、恥ずかしいよ」 「恥ずかしいじゃねーよ。じっとしてろ。ぶっ殺すぞコノヤロー」 彼は「ぶっ殺す」「ぶっ殺す」と掛け声をかけながら私を抱いて走る。 お姫様だっこが台無しだ。 こんな事を言ったら嫌な女と思われるかもしれないけど、どんなに優しくても、こんな汚い言葉を使って欲しくない。 私には、もっと相性の合う人がいるのでは? そんな事を思ってしまう。
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