保健室

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「失礼します。あ、先生。ちょっとこれ怪我しちゃって、絆創膏あります?できれば三個欲しいんだけど。」 そんな中、待ち人が来た。相変わらずの金髪。この金髪が許される理由、それは彼の頭脳にある。 彼はほとんど勉強をしていないかのような、余裕の表情でテスト問題を完璧にこなす。その頭脳に、我々はとても期待しているのである。 「いいけど、何でそんなに怪我するのかね。この二人は本当にもう…」 「は?え?夕、怪我したの?いつ?何処で?見せて。」 彼の目の色が少し変わった。自分の大切な人を見る目だ。こういう目が出来るのかと、僕は最近になってようやく気付いた。 恋というのは、何とも素敵なもので、何とも神秘的なものだ。 僕はまさかここまで年下の同姓から、しかも自分より大分年下の生徒から教わるなんて、夢にも思っていなかった。 「別に大した事ないです。転んだだけで。」 「まじで。大丈夫かよ…」 「そろそろ帰りなさい。カップルさん。」 「もうそういうのほんとにいいから。じゃあ、俺の夕は返してもらおうか。」 こういう台詞を恥ずかしげもなく堂々と言える男に、僕もなりたかったものだ。 「何言ってるか全然わかんないね。」 「何だよ。ノリ悪いな。でもまじでありがとう先生。じゃあ行くわ。」 「ありがとうございます。」 僕は二人の後ろ姿を静かに見つめていた。この後の二人はきっと、またそれぞれの思惑に胸を震わせるのであろう。 嫉妬は、時にスパイスになるのだな。また勉強になった。 申し遅れましたが、僕は養護教諭の坂本と申します。保健室の先生です、勤続3年です。彼女はいません、募集中です。 「いいな。恋か。何年してないかな。」 もうすぐ夏が来る。 僕も恋をしよう。そう思った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加