治まらない動悸

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幸い、負傷した機動隊員に死者はなく、結局は被害も最小限に食い止められた事件だった。 乗客の安全を確保し、機転の利く乗員の誘導の元、全員を飛行機の外へ脱出させ、最後に犯人を連れ出す。 警視庁の人間が出てきていて、犯人を引き渡して引き継ぎを終える。 「こちら大崎。全員撤収。以上、通信終了。」 『ラジャ。』 「…心?怪我はないか?」 『大丈夫。蒼依は?』 「俺も平気。今どこにいる?」 『………外。ヘリに乗るところ。』 辺りを見回し、その姿を捉える。 (……!!クソ!) ヘリの爆風と爆音が吹き荒れる中、フェンスの向こうを眺めて佇む彼女。 それは考え事をしているときによく目にする背中で。 「……心!帰還する!ヘリに乗れ!」 「……はーい。」 その腕を掴み、俺に振り向かせる。 少し驚いた表情をしたが、直ぐにクスッと笑みを浮かべた。 「……警戒心の塊ね。蒼依。」 「当たり前だろ。不可解なこと言われてんだ。」 「まだまだだね。でも、…私だって意味が分からないのよ。それでも何か感じる。」 「何かって?」 「見逃しちゃいけないものだって。心が頭に訴える…そんな感じ。蒼依だってそういうことあるんじゃないの?」 「…確かに。でもな、心。無茶するな。」 「大丈夫だよ。」 「ボロボロになってやっと復活したと思ったらこれだからな。…本当にお前は俺の寿命を縮ませる天才だよ…」 囮になるのは命を懸けるということ。 だから俺は自ら囮役を買って出る。 それは彼女も同じこと。 隊員を守るために。……俺を守るために。 抱き寄せた身体の温もりを感じ、今、俺の腕にいると実感出来た時に初めて安堵の息が漏れる。
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