序章 終わり

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 そして一緒に森へ行き、共に駆けた隣にいる小さな少女が、かつて自分の家があった場所へと走っていく。  ――行くな、そっちに行ってはいけない。  そう言おうとしたのに、きゅっと喉が詰まり声が出なかった。頑張って立ち上がって手を伸ばしたけど、その手は届くことなく宙を仰ぎ、少女は遠ざかっていく。  すぐに、そのことを後悔することとなる。彼女のその幼い手を追いかけて、掴まなければならなかったのに。それが、できなかった。だから――  突然黒煙を撒き散らし現れたそれは、凄まじい速度で儚げな少女に迫り、美しい曲線を描いて振りぬかれた、雪のように真っ白な剣が、吸い込まれるように細い首へと向かっていく。風を切り、肉を断ち、骨を砕く。一連の動作はスローモーションのようにゆっくりと、確実に行われていく。ただ、スローモーションというのは脳内妄想に過ぎず、実際は一秒もかからなかった。
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