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第三幕『修羅場の中で』
まずは息を殺す。気配を殺す。殺気を出すのは厳禁だ。隆義は自分にそう言い聞かせながら、住宅の影に隠れている。
こちらは狭い裏通り、敵部隊は表通りにいる。見つかれば、あっと言う間に囲まれるだろう。もしそうなれば無事ではすまない。
ロボット数台、バイク、武装した車、武装したヤクザを何人も乗せたトラックが、ゆっくりと通りを過ぎていく。
隆義はそれを影から見ながら──
「きゅーちゃん、気付かれてないかな……?」
──小声で、問いかけた。
「まだ、きづかれてないみたい。じゃけど……」
「じゃけど?」
「……うちらのうしろからね、たんしゃが、このみちにはいろうとしよる」
単車──つまりバイクの事だが、隆義に意味は通じたようだ。
「やばい……」
相手はバイクだが、敵がこちらに来る事を聞き、隆義の額に冷や汗が流れる。
「いまよ! いそいで」
「あぁ」
きゅーちゃんの一声で、シ式は急いで歩き出す。バイクが折り返してくる前に、ここから抜け出さなければ……隆義は焦燥感に駆られながら、慎重に鉄の脚を運んだ。
左手に見える赤レンガの建物──被服支廠・出汐倉庫は、南北に三つの倉庫が並んでいる。現在位置は二番目の倉庫だ。
「だいじょうぶ。はしって!」
充分に距離は取れたらしい。きゅーちゃんの指示が飛ぶ。
隆義はそれに従い、とにもかくもシ式を小走りさせる。
「もうすぐ、こっちにくるよ」
額から冷たい汗が流れ、手も汗でじっとりと湿っているのを感じながら、ようやく三番目の倉庫の角を左折した。これで隠れて安心できる。隆義は安堵──
「って、この建物長いな!」
──するのはまだ早かった。曲がった所で、さらに四つ目の倉庫がそこにあったのだ。
ついにシ式が通ってきた裏路地を、バイクに乗った暴走族が覗き見る!
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