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「……大丈夫だ。何もねーぞ」
「そうか。……おい、こっちは異常ないぜ!」
暴走族は、路地を覗き込んだだけで道を引き返した。彼らの心を読んだきゅーちゃんは、相手の目的地がまだ比治山である事を理解し、一息をつく。
「だ、だいじょうぶみたい」
隆義も、シ式が歩く速度を自分のマイペースに戻した。
「のぞきこんだだけで、いってしもうたみたいね」
「ゲームだったら、しつこく追ってくるんだけどな。……何にしても助かったか」
ここで、隆義も安堵の溜息をつき、額の汗を拭った。
「うわ。手も額も、汗びっしょりだ……」
今、四つ目……最後の倉庫を通り過ぎた。その先は学校の敷地らしく、塀と植木、そして鉄柱に支えられた網が張られているのが、隆義の目に入った。
さらに、先に見える道路には、動きを止めたバスの姿が見える。
「車の流れが、完全に止まってる。どうなってるんだ……」
動いているのは、新島組の組員と、その傘下の暴走族が乗る車両だけだ。他の車は、エンジンこそ回ってはいるが、完全に動く気配が無い。
「たかよし。まっすぐいっても、とおれんみたいよ?」
「地図、持って来ればよかった……」
こんな時に、大事な物を忘れた事に気付き、隆義は後悔した。しかも、地図は遠出の基本中の基本の持ち物である。
「方角だけ解っても、道が解らないんじゃダメだな……」
「んむー……ちょっと、うちがそとをみてこようか?」
「ごめん、頼むよ」
トホホとため息をつく隆義の後ろから、きゅーちゃんは乗降ハッチをすり抜けて、シ式の外へ飛び出した。流石に、いつものようにふよふよと飛んではいられないのか、今の動きは燕のように素早い。
先は立ち往生したバス、反対側の南へ行く車の列も、ぎっしりと詰まっている。車内にいる誰もが、携帯電話やスマートフォンを手に、勤め先や家族と連絡を取っているのが見えた。
「みんな、とおくにいるひととはなしとる。べんりなきかいもっとるねぇ……」
きゅーちゃんは人々の心を読み、ただ驚嘆する。同時に、道の南北を見渡し、シ式が通れそうな場所を探した。すると──
「あそこなら、とおれそう……」
──通れる場所を見つけたきゅーちゃんは、一目散にシ式の中へと舞い戻った。
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