第三幕『修羅場の中で』

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「どうだった?」 「あっちの、みぎのほう……みちがまじわってるところが、とおれそうよ」 「交差点か。できれば大きな通りは避けたいけど、仕方ない」  シ式は再び、進み始めた。すぐ右に伸びる小道を通り、さらに道に沿って東へ進む。  とにかく、発見されるのだけは避けたい為、隆義が動かすシ式の足は、先程にも劣らぬ早歩きになっていく。  今、交差点に出た。 「こうなったら、山の方へ突っ切ろう……」  目的地は近い。隆義は思い切って、交差点を南東の方向に向かって突っ切る。が──  ピロリン♪  その音は車の中からだ。隆義の耳には届いていない。音を発した主は、スマホのカメラをシ式に向けていた。すかさずその画像は──ツイッターに投稿される。  車の流れが完全に止まる中、ある人はツイッターで情報を呟き、またある人はブログで、メールで、SNSで、匿名の掲示板で、それぞれの状況を発信する。  情報が早く、誰でも見られるという点では、ツイッターを見ている人々の方が、事態を把握するのが早かったようだ。 ──ヤクザがカタギに手を出したぞ! 新島組って名乗ってる! ──橋が爆破された! ──車が進まなくてクラクションを鳴らしたら、鉛弾が飛んできたでござる! こうして、呟きが、写真が、そして動画が、次々とネットの上に放出され、情報が波のように広がっていく。  今、ここにそれらの情報を集める者がいた。 「わぁ~……大変ですー!」 次々と情報を記録してまとめ、動画と画像が作られた物でないか、真実の物かどうかをも分析していく。 「画像に改ざんは無いみたいですねー。動画は解りませんがー」  声は少女のようで少し違う。いわゆる〝萌えボイス〟と呼ばれる類の声だ。しかし、彼女の姿は、どこにも見当たらない。 「自分の目で確かめてみましょうかー」  情報を集め、分析を続けるのは、姿を見せぬ少女の独り言。パソコンの画面は幾つものウインドウが開き、同時に複数の処理が進行している様子だ。  同時に、市内各所に設置されたライブカメラの映像が次々と開かれていく。しかも、コンピューター上で操作権を得て、一定時間だけ自在に動かせる物だ。  彼女はその映像を見て、どこもかしこも車の動きは止まり、街のあちこちから黒煙が上がっている様子を確認する。武装した車両やバイク、ロボットが、歩道を無理やり通って移動している様子もだ。
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