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ふわり、と優しく微笑んだ声は柔らかなアルトの声で、まだこの少年が声変わりをしていないことが窺える。
若しくは、声変わりは終わったが、そこまで声の変化がなかったのだろうか。
優しく声を掛けてきた主人に嬉しそうに「なーん」と鳴いて、黒い子猫は主人の手を伝い、肩に上る。
肩に上った子猫―――ララァは、弥王の頬に顔を擦り寄せた。
その開けられた喉を指で擽るように撫でれば、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。
ララァを撫でながら、弥王はキッチンへ向かった。
「あ、おはようございます、ミオン様!」
キッチンに入るなり、可憐な声が弥王に飛んできた。
キッチンには10代後半くらいのメイドが居て、朝食でも作っているようだった。
水色の肩までの髪をツインテールにしている彼女は、メリア・クライ。
優しげな紫の瞳がとても印象的な少女だ。
彼女は、弥王の両親の友人の子で、幼い時から姉弟のように仲が良かった。
朝から、メリアの顔が見られるなんて、なんて良い日だろうか、今日は。
頬を綻ばせて、弥王は挨拶を返す。
メリアが朝食を作っている隣で、弥王は弁当とクッキーを作る。
これは毎朝の習慣で、メリアは特に何も言わない。
何でも他人任せにするのが嫌いな弥王は、最低限のことは自分でしていた。
他愛ない話をしながら、弥王は鞄に弁当とお菓子を詰めていく。
勿論、鞄の中には教科書も入っているが、帝王学で大体、高校生修了までの頭脳はある。
特に一から中学に態々通わなくても良いだろう、と思った所で弥王は思考を遮った。
何かが近付いてくる気配がしたからだ。
弥王は食卓より数歩離れた扉に目をやった。
そして、その気配の主は数秒後には扉を壊れんばかりにバァァァアン!!と開け放つ。
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