The sign

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 ――――初めに感じ取れたのは、その場所の苔むした空気でもなく、頭頂部に垂れる水滴の冷たさでもなかった。  ――――怒気。憤怒。憎悪。  いや……あるいは、悲しみ?  それらのないまぜになった、強烈な……ひたすらに強烈な存在感。はじめに感じ取れたのは、それだけであった。  ゆっくりと、目を開く。どこか、古びた木造の建物の一室。部屋は奥の壁が見えぬほどに暗く、そしてねっとりとした湿気を帯びている。視界がそれらの情報を伝える前に、つんと、酒とカビのすえた臭いが鼻を刺した。  顔を上げ、気づく。両腕が手錠のようなもので拘束されている。その手錠はどうやら天井から吊るされているらしく、両腕が縛り上げられたような形で固定されていた。
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