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足は自由であるが、どうやら薬のようなものを嗅がされたのか、立っているのがやっとなほど力が入らない。意識も先ほどから朦朧としており、気を抜けば再び混濁の海へと突き落とされそうだ。
「――――目が覚めたか、チェイサーキャット」
ぼう、と。まるで幽鬼の恨み節のような色を帯びた声が、奥の闇から響いた。
言葉を返そうとしても声が出ず、睨み返そうにも瞳はその声を追うのでやっとだ。
そうしてやっとのことで声のする方を見ても、その声の主は闇にまぎれて姿が見えない。しかしそうでなかったとしても、チェイサーキャット――――セトミ=フリーダムが声を返せることはなかっただろう。
その男の存在感は、それほどまでに重く苦しく、底の見えぬ深海のごとき不安を植え付ける者だった。
「――――あん……たは……」
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