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ましてや、夕梨は普段は常識的かつ清純な女の子。
いくらバーサーカー状態だとはいえ、度を過ぎた変態に柔軟な適応ができるはずがない。
くくく……どうだい夕梨?
百 年 の 酔 い も
冷 め る だ ろ う ?
「へいへいへいへいへいへい。そんなに顔を真っ青にしてどうしちゃったんだい、レディ。俺はそんなに可笑しなことを言っているかな?」
「……え、あの、えと、」
「何も難しいことなんてないんだぜ? 夕梨は俺を愛してくれている。ならばその愛を、嫌悪と侮蔑に変えてぶつけて欲しい。ただそれだけさ。それだけで、夕梨の愛は深く俺の胸に突き刺さるのだから」
「や、だから、その、それは、ちょっと、おかしいんじゃ、ないかな、って」
「YUUUUUUUURRRRRRYYYYYYYY!!」
「ひゃいぃぃ!」
ここまで来て今更止まるわけにもいかない。
というわけで、奇声をあげながら、彼女を近くの塀まで追い詰めた。腕で逃げ道を塞ぎ、真正面から相手を見据える――所謂、壁ドンである。
まさか俺もこのトキメキ体勢をこのシチュエーションでやることになろうとは思わなかった。
「か、かか、か、かけ、る……」
眼前の夕梨の顔は、酔いとはまた違った気色で真っ赤に染まっている。
目には薄ら涙が浮かんでおり、触れれば折れてしまいそうな弱々しさまで感じられた。
泥酔状態の面影は、最早見る影もなく、あのどうしようもない危険性はまるで感じられない。
そこにはただ、予想外の事態に困惑する年相応の可愛らしい少女の姿があるだけだった。
「……夕梨」
「な、ななな、なんでしょうか!」
「ここまで秘密を暴露したんだ。俺、もう我慢なんてできない」
「~~ッッ!!」
――そう。
これは、"逆転の話"。
「あの、その、け、決して、嫌というわけでは、ないんだけど、」
――泥酔バーサーカーの夕梨に遭遇した時点で、俺の生存は絶望的だった。
「で、でも、いきなりそういうのはハードルが高いというか、私としては、もっと普通な付き合い方のほうが……嬉しい、というか、」
――だが、いくら酔っぱらっていようとも夕梨は夕梨。
今回の一件の全ての元凶であった"変態性"をあえて利用することで、この手の話に奥手な彼女の性格を見事引き出すことに成功した。
今となっては、優位に立っているのは俺の方。
つまり。
――形勢"逆転"だ。
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