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◇ ◇ ◇
そんなこんなで後日談。
驚天動地のキラワレール事件から、数日経ったある日のこと。
穏やかな日差しが降り注ぐオープンカフェの一席で、ワタクシこと兎上駆は、穏やかにコーヒーを味わっていた。
街はずれの立地のせいか客は疎らであり、全体的に非常に閑静な様子。
誰かと待ち合わせて、周囲を気にせず話をするには、まさにうってつけの環境だと言えるだろう。
そう、お察しの通り。
俺は今、人を待っているのである。
「――やぁ、すまない。待たせてしまったな」
と。タイミングよく、一人の人物がアイスコーヒーを片手に俺の席へと近寄ってきた。
素人目でも分かるくらい、高級そうなスーツを見事に着こなし、独特の気品を感じさせる出で立ちの壮年の男性。
早乙女清照さんその人だった。
「どうも。こちらこそすみません、清照さん。こんなところに急に呼び出してしまって」
「それは構わんよ。君の方から私を誘ってくれるのは、滅多にない貴重な機会だからな。各省庁官僚達とのゴルフコンペをキャンセルしてきたが、取るに足らない小事だ」
相変わらず、出会い頭にとんでもない発言をしてくる人だ。改めて住む世界の違いを実感したが、そこは『あはは……』と曖昧な笑いで誤魔化す。
「それと、重ねてすみません。清照さんみたいな上流階級の人を誘うには、もっと相応しい場があったとは思うんですけど……生憎普通の高校生には喫茶店が限界でして」
「気にすることはない。こういった喫茶店は、むしろお忍びで利用することが多いからな。金持ちが高級店ばかり通っていると思っているのだとしたら、それは君の偏見だ」
「そうだったんですか」
「本物の一流は、場所を選ばない。覚えておくと良い」
微笑みながらそう言う清照さんの姿は……成程、確かに。
ありふれた喫茶店で、数百円程度のアイスコーヒーを飲んでいる―――そんな普通の光景が、恐ろしいほど様になっていた。
清照さんの周りだけ、どこか違う世界のような。同じことをしている筈なのに、何故か絵になってしまうような。
とにかく、挙動や仕草の一つ一つが、上品で洗練されている。一目で見て、それが分かってしまうほどに。
やはり"本物"は違う、ということか。
うーん。
まともにしてれば、やっぱ凄い人なんだよなぁ……この人。
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