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「――で、だ。兎上駆君」
そんな物思いに耽っていると、清照さんの方から話題を切り出された。
「回りくどいのは、生憎性に合わない。余談はここまでにして、本題に入ろうじゃないか」
飲みかけのアイスコーヒーをテーブルの上に置き、清照さんは静かに俺を見据えてくる。
「君がわざわざ私を呼び出した理由は――考えるまでもない。先日のキラワレールの一件に関してだろう?」
ストレートに核心をついてくるところが、清照さんらしいと言えば清照さんらしい。
よろしい。
ならば俺も遠慮はしない。
「話が早くて助かります。勿論、その通りです」
「そうか。っふ。いや、先に言っておくが、礼など不要だぞ。私と君の仲じゃないか。私としては、同じ趣味趣向を持った人間が増えてくれただけで充分だ」
「この流れで俺が貴方に感謝を述べると思ってるその思考回路そのものが欠片も理解できないのですが、変態に何を行っても無駄だということは分かりきっているので、今更その辺を悔い改めさせるつもりはありません。なので、清照さん、とりあえず一発殴らせて下さいッ!!」
それはこの数日間、ずっと俺が言いたかった台詞だった。
漫画のような怒りマークを大量に額に浮かび上がらせて、俺は笑顔で握りこぶしを固める。
一方それを見た清照さんは、分かり易く首を傾げてみせた。
「何故だ? 何故そんなにも怒っているんだ、兎上駆君」
「激怒の一つや二つするに決まってるでしょうが!貴方の変態性に巻き込まれたせいで、俺は……俺は……!」
「ふむ、冷静さを欠いているな、君らしくもない。まぁ待て。事情はあるだろうが、兎角、暴力は良くない」
「今更命乞いですか!もう遅いですよ!鉄拳制裁は決定事項です!」
「いや、そうではなく。私ほどのプレイヤーになると、例え同性から暴力を振るわれようとも、その相手を瞬時に脳内で"男の娘"へと切り替えることで、暴力をご褒美へとコンバートする技能を持つということだ。君がそれでも良いのなら、喜んで享受するが」
「暴力はよくないですね。話し合いで解決しましょう」
清照さんの顔面に放たれる筈だった俺の拳は、すぐさま脱力。
つい先程まで俺の胸中を渦巻いていた激情は、恐ろしいくらいあっという間に鎮静化していた。
駄目だ、やはりこの人は格が違う。
こんなにも、憎むべき相手に暴力を振るいたくないと思ったのは初めてだ。
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