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そう。
俺がこの変態によって酷い目に合わされたという事実は、揺らがない。
怒りを暴言に変えて吐き出したい気持ちも、今すぐ殴りつけてやりたい気持ちも変わってなどいない。
「だから、その、」
本物のSMだとか、究極の飴と鞭だとか、そんなもの、俺には到底理解できない変態の領域だ。
今回の一連の事件は、その変態の趣味趣向に、傍迷惑な形で巻き込まれただけ。
ただそれだけに過ぎない。
「つまり、何というか、」
だから、今俺が、目の前の変態に対してぶつけてやる台詞など決まっている。
決まっているのだ。
「――清照さん」
意を決して立ち上がり、彼の名を呼んだ。
このキラワレール事件を通じて、俺が抱いた素直な気持ちを伝えるために。
「――キラワレールって、量産とかできますかね……?」
瞬間。二人の間に流れる沈黙。
「……兎上駆君」
しかし、その静寂はすぐさま清照さんの声によって破られる。
彼は真剣な眼差しで俺を見つめながら、同様に立ち上がってくれた。
「今日から私のことは、お義父さんと呼びなさい」
「パパ――――――!!!」
こうして、俺達は白昼堂々、人目もはばからず、熱く固い抱擁を交わしたのだった。
俺達二人の間に、親子の絆にも等しい深い深い繋がりが生まれ、今回の話は本当の意味で幕を閉じる。
ちなみに、この日を境に早乙女グループの製薬部門は著しい成長を遂げ、やがて不治の病の特効薬となる画期的な新薬を生み出すことになるのだが……それはまた別の話。
~fin~
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