ある入院の話

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「暇である」 物凄ぉく暇である。 ――というわけで、季節は冬。 気持ちよく晴れたある日の午後のことだった。 慣れ親しんだ病院のベッドに横たわり、窓の外に広がる青空を眺めながら、ワタクシこと兎上駆は、胸中に渦巻く正直な今の気持ちを、これまた正直に吐露してみたわけでありまして。 「吾輩は暇である。解決策はまだない」 と、夏目漱石チックに言いかえてみても現状は変わらない。 そう。 何を隠そう俺は今、人生で何度目かの入院中なのである。 若気の至りというか何というか……少し前に、関東最強の暴走族の総長さんと本気の喧嘩を繰り広げた結果がコレだ。辛うじて一命は取り留めたが、全治数週間で即入院的な。みたいな。 自業自得と言えばそうなのだが、しかしだ。全国の高校生諸君が皆一様に楽しく冬休みを満喫しているだろう最中に、俺はというと、こうしてベッドの中にいるしかない……その事実を深く考えてしまうと、やはり不満とやるせなさが生まれてしまうわけで。 だからこそ。 俺はこうして叫ぶのだ。心の底から叫ぶのだ。 「あああああああ暇だよぉぉぉ!暇なんだよぉぉぉぉ!はああぁぁぁぁん!」 「――はい、駆君病院ではお静かにねー」 ブスリ、と。 何の脈絡もなく、いきなり俺の右目に体温計が突き刺さった。 大事なことでもう一度。 体温計が、 右目の眼球に、 突き刺さった。 「あ゛あ゛あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 目がぁ!目がぁぁぁぁ!! 右目を襲う激痛に、ベッドの上をのた打ち回っていると、更なる追い打ち。なんと、かなり乱暴な手つきで容赦なく右目に刺さったままの体温計が引っこ抜かれたのである。ぎゃあぁぁぁぁぁ!!喰種ですらもここは弱いのにぃぃ! 「……はい。36,5℃。体温も異常なしね。よろしいよろしい」 「いや、欠片もよろしくないですよ櫻井さん!貴女、入院患者になんてことするんですかぁ!」 涙を流しながらも、今の恐ろしい凶行をしでかした張本人を睨み付ける。 俺のベッドの横には、いつのまにか真っ白なナース服に身を包んだ看護婦さんが立っていた。
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