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「浅川、この前さあ、俺になんでうち来るのって訊いたよね」
ぽろぽろと崩れたスコーンのかけらが紙袋の上で小さな音を立てる。
「1人で食べるのが嫌だとか、人と食べるのが好きだとか、料理したいとか、そういうのも勿論あるけどさ。浅川と一緒にいると楽しいからに決まってんじゃん」
チョコレートの甘い匂いとコーヒーの匂いが混ざる。
「浅川は俺と一緒にいて楽しくない?」
「……考えたこともなかった」
「え!? ひどくね?」
「……嶋野が俺と一緒にいるのは、誰かと一緒にいるのが目的で、俺はその手段に過ぎないんじゃないかって。俺が目的な訳じゃなくて、それは俺じゃなくても、別に用は足りるだろうと思って」
俺がそう言うと嶋野は、
ちょっと言ってることがよくわかんねえな、
と頬杖をついて片手で俺をじっと見るので、思わず目を逸らした。
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