192人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
「まあ、一番好きなものってあんまり人に言いたくないものだしな」
冷えた指であたたかいカップを握った時みたいな、あのじんわりとした感じがした。
「さっさとこれ終わらせて帰ろうぜ。……って、これ俺が豊田に頼んだ経費報告書じゃん」
「豊田さんに頼まれたんで。でももう少しで終わるし」
「なんでそう無駄にお人好しすぎるかな、おまえは! いーよ、これは俺がやる」
「……手伝ってもらわなくてもいい」
「えー? 元々やるはずじゃない仕事なんだから、いいって。手伝うよ」
「いい。これ手伝わなくていいから、先帰って夕飯作ってて」
カバンの内ポケットから家の鍵を出して嶋野に手渡すと、目を丸くした。
「これ、合鍵……?」
「いやいや、後で返せよ」
わかった、ありがとうと俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
人に触れられるのを不快だと思わなくなったのは、いつ以来だろう。
最初のコメントを投稿しよう!