#03

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「まあ、一番好きなものってあんまり人に言いたくないものだしな」 冷えた指であたたかいカップを握った時みたいな、あのじんわりとした感じがした。 「さっさとこれ終わらせて帰ろうぜ。……って、これ俺が豊田に頼んだ経費報告書じゃん」 「豊田さんに頼まれたんで。でももう少しで終わるし」 「なんでそう無駄にお人好しすぎるかな、おまえは! いーよ、これは俺がやる」 「……手伝ってもらわなくてもいい」 「えー? 元々やるはずじゃない仕事なんだから、いいって。手伝うよ」 「いい。これ手伝わなくていいから、先帰って夕飯作ってて」 カバンの内ポケットから家の鍵を出して嶋野に手渡すと、目を丸くした。 「これ、合鍵……?」 「いやいや、後で返せよ」 わかった、ありがとうと俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。 人に触れられるのを不快だと思わなくなったのは、いつ以来だろう。
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