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2人でいる時の嶋野はよく、俺の髪の毛に手をつっこんで頭をわしわしと撫でてくる。
少し前の俺ならば、誰かに触れられることを、
誰かが自分の領域に立ち入ることを強く拒んだのに。
髪の毛と耳の付け根と、首を這う指を、頬に触れる手のひらの体温を、
心地よく受け入れている。
だけど、こんな自分は自分じゃないと思う部分もまだ残っていて。
澄んでいるように見えるけど底の方には澱が溜まっていて、
何かの拍子にすぐ濁ってしまう。
嶋野はたまに俺のことを「近所の猫に似てるんだよね」などと言う。
「うちの近所の駐車場にさ、毛のふわふわした白い猫がいつも寝転がってるのを会社に行く時見かけるんだけど。あの猫触ったらこんな感じかなーって」
「猫を撫でろよ、猫を」
「うーん……撫でて! って仰向けになってアピールしてるからさ。人に好かれようとする努力は悪いことではないと思うんだけどねえ。自分がかわいくて愛されて当然って顔をしてるのは、あまり好きになれないねえ」
それって同族嫌悪じゃねえのと言うと、
かもね、と笑ってまた俺の頭を撫でてくる。
たしかに人に好かれるための努力なんかしたことないけどさ。
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