第1章

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営業課と商品開発課の入る三階には関ヶ原といわれる休憩スペースが、中央に位置する。 犬猿の中とも言われる二つの課が、階を移動しないのは必要不可欠な相互関係があるからだ。 休憩スペース、中央、自販機。 自販機の前でカップ珈琲の出来上がりを待つ男は、営業課毒島元志。その眉間によったシワを指で伸ばしながら、ため息を吐いている。 「景気悪そうな顔だね、ブスジマくん」 マイカップ持参で茶化すように後ろから近づいて来るのは、商品開発課松井恭裕。毒島とは、正反対な明るい髪と見るからに社交的である。本来ならこの二人どちらが営業向きかと問われれば、皆、松井と答えるだろう。それぐらい、第一印象から、松井は人を和ませる力がある。 毒島は、問いかけに答えもせず出来上がった珈琲を取り出すとおもむろに松井を振り返った。そうして再度深い溜め息と共に、同級生でもある同僚を見据えた。 「な、なんだよ、だから、営業は」 言葉を続けようとした松井を遮って、毒島は微笑んだ。 「……、台湾にでもいくか?」 ガシャン。 持っていたカップを落とした松井は慌ててしゃがむ。 「な、いきなり、ああ、気に入ってたのに、クソっ」 動揺した様子の松井は割れたカップを、拾う。台湾が二人にとって軋轢の少ない社会だと言うことは、この世界の人間には良く解ること。だが、それは全てを捨てることだ。 ガチャリガチャリと、上手く掴めないでいる松井を見かねて、毒島もしゃがんだ。 「出張だ。何を期待した」 毒島の手が割れたカップを取ると本の僅か手が触れた。 「このっ、クソ野郎」 柄にもなく高揚した松井の顔。毒島は、涼しい顔をしている。 さっさと拾った毒島は、本来の手際のよさで散らばった破片を片付けると、珈琲に口をつけた。 「せいぜい、現地で羽目をはずせばいい!言いふらしてやる、営業二課のやり手時期課長候補は、色魔だってな」 「お前も行くんだろう?」 軍配は、毒島に上がったようだった。
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