災害の3

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手で後ずさりしながら、ドアの近くまで下がった。その時、誰かに手を引かれた。 廊下に引っ張り出された後、助けてくれた相手を見た。 「大丈夫だったか?」 「兄貴…!」 引っ張り出してくれたのは兄だった。右手にペンキ缶を持っている。 「怪物を動けないようにすればいいんだ。そうすれば襲われない。」 兄は手を差し伸べた。 俺は、手を握って立ち上がった。 「ありがとう…ゾンビは、動けなくできればいいんだね。」 「うん。それと、確実なやり方があるんだ。ゾンビ達は、脳と脊髄が切れると、反射によって痙攣を始めるみたいだ。要は首を切るってこと。つまり…」 「つまり…?」 「ゾンビは動かなくなる…いや、死ぬんだ。」 「死ぬ…」また、あの時を思い出した。こめかみの下辺りに突き刺さった包丁は、偶然にも脊髄を切り裂いたのだろうか。あの時、確かに母は痙攣していた。身体中を震わせながら、首から血を流して倒れる母…ゾンビだとしても、忘れるにしては鮮やか過ぎた。 あの時の記憶は、いつまでも脳裏で再生されている。離れることなく、しつこく追いかけてくるのだ。 顔にその気持ちが現れたのか、兄に肩を叩かれた。 「…悲しむ気持ちはわかる…」 兄が言う。 「でもな…お袋は、こんなところで君が死んでしまうのを望んでいないはずだ。…さっき、お前がお袋を倒した。だからお前が生きている。」 「兄貴…」俺の目は涙で滲んでいた。 「お前に生きて欲しい…そのためには死ぬことだってできる…死に変えてでも我が子は可愛いのが普通だよ。」 「だからって…だからって、俺が殺さなきゃ…」 「仕方ないんだ…お袋に聞くことはできないだろう?」
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