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手で後ずさりしながら、ドアの近くまで下がった。その時、誰かに手を引かれた。
廊下に引っ張り出された後、助けてくれた相手を見た。
「大丈夫だったか?」
「兄貴…!」
引っ張り出してくれたのは兄だった。右手にペンキ缶を持っている。
「怪物を動けないようにすればいいんだ。そうすれば襲われない。」
兄は手を差し伸べた。
俺は、手を握って立ち上がった。
「ありがとう…ゾンビは、動けなくできればいいんだね。」
「うん。それと、確実なやり方があるんだ。ゾンビ達は、脳と脊髄が切れると、反射によって痙攣を始めるみたいだ。要は首を切るってこと。つまり…」
「つまり…?」
「ゾンビは動かなくなる…いや、死ぬんだ。」
「死ぬ…」また、あの時を思い出した。こめかみの下辺りに突き刺さった包丁は、偶然にも脊髄を切り裂いたのだろうか。あの時、確かに母は痙攣していた。身体中を震わせながら、首から血を流して倒れる母…ゾンビだとしても、忘れるにしては鮮やか過ぎた。
あの時の記憶は、いつまでも脳裏で再生されている。離れることなく、しつこく追いかけてくるのだ。
顔にその気持ちが現れたのか、兄に肩を叩かれた。
「…悲しむ気持ちはわかる…」
兄が言う。
「でもな…お袋は、こんなところで君が死んでしまうのを望んでいないはずだ。…さっき、お前がお袋を倒した。だからお前が生きている。」
「兄貴…」俺の目は涙で滲んでいた。
「お前に生きて欲しい…そのためには死ぬことだってできる…死に変えてでも我が子は可愛いのが普通だよ。」
「だからって…だからって、俺が殺さなきゃ…」
「仕方ないんだ…お袋に聞くことはできないだろう?」
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