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俺は、一人脱出路を探していた。頼人らと合流した後の為だ。SIGの弾丸は、30発しかなかった。
「これでは足りない…」
弾薬の少ない中、手縫いを取り出しながら俺は心の中で考えていた。どうにかして節約しないと…今度は、家屋の瓦礫の後から発煙筒の束を引っ張り出した。瓦礫に挟まって息途絶えていた男が、抱えて持っていたのだ。何に使おうとしていたのだろう…ついでに、レトルトカレーも手に入れた。
5時を超え、暗闇になっていく空と、燃えている家屋の炎とのコントラストが余計きつくなっていた。額からは、炎の熱により汗が吹き出て、数分もすれば、それがジュワリと蒸発してゆく。路肩の雪も、もう白い固体としての形を保っていなかった。
炎の中に、生けし亡者が見える。一生、この光景は目に焼き付いている…
気がつくと、坂を上りきっていた。下り坂の末に、公園の入り口らしきものが見える。
「み、みはらし峠か。…ここからまっすぐ行けば、あの山の登山口か…!」地図で、坂から様子を見た。もう少しで、市外に出ることができる筈だ。
「よし、これで街から出れる!」恐怖の連続で笑うことさえなかった俺の顔に、少しの笑みがこぼれた。
そのころ頼人は、全壊した自分の家を、呆然とみていた。
「おふくろ…やっぱり…この瓦礫の中に…」古い家屋だったが、隣から出た火がついたことによって家や道場ごと崩れてしまったのだ。
「風邪で寝込んじまったのが、いけなかったんだ…」
《頼人…何めそめそしてるのよ!》心の中で、母が呼びかけている気がした。
《あんたがいないと、この一家はどうなるの?父ちゃんを苦しませるつもりかい?!》
「そんな…そんなつもりない…おふくろ…」
《なら、生きなさい!》
「…」
《頼人!》
「…分かった!生きて帰るよ、おふくろ!」
家の瓦礫の一つを、引っ張り出したナップサックの中に入れた。その他色々なものも詰め込んでいく。
これが、おふくろの遺骨だ…
「あ、頼人!」
軽仁が後ろから近づいてきた。
「家が…」
「大丈夫だ。もう済んだ。」
「そう…見て!これなら大丈夫だろうね。」
軽仁は、どこかで拾ったのか、特徴的なショットガンを見せた。
「そうだな、武器を拾って生き残るか…」
「ね。やっぱりそうだよ。」
「そうだな。…戻ろう。」
がっしりとした体格の頼人と、小さめな軽仁は、大きさが合わない肩を並べ、来た道を戻っていった。
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