第1章

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「いつもご飯の時に漬物出してるでしょ?あんた、しょっぱい酸っぱいって言ってあまり食べないけどさ」 「あ!!あれ!?あの酸っぱい漬物!!『ヌカズケ』でしょ?」 「そうよ。あれを漬けるヌカを『ヌカ床』って言うの。その家その家で味が変わるんだから。それに手間暇かけないと、すぐにダメになっちゃうのよ。研究にはぴったりの題材じゃない?」 「えー、何かやる気でないー」 その時お父さんが来て「ほぉ、お前ヌカ床作るのか?ママより美味しいのが作れたら、こないだ強請ってたワンピース。買ってやってもいいかもな」と歯ブラシを咥えながら、私の部屋に顔だけを覗かせた。 その話に私のテンションは一気に上がった。 「え?マジ!?約束だよ??絶対だよ??」 「もしママより美味かったらな」 「じゃあ出来た時に目隠しで食べてもらうからね。じゃないと美味しくてもママのって言いそう」 「え、それは・・・」 「親父、早々に策潰されてんじゃねえか」お兄ちゃんがコーヒーを手に持ちながら、キョドってるお父さんの横を静かに通りすぎて行った。 「あ、・・・おい。勉強頑張れよ」 「言われなくても頑張ってるよ」 そう間髪入れずに切り返すお兄ちゃんは「パタン」とドアを閉め、静かに部屋に戻っていった。浪人生になってなんだか雰囲気が変わった。なんだか、そう、理科の実験で使うガスバーナーの青い炎みたい。高校生だった時はサッカー部でメラメラ燃えるアルコールランプみたいだったのに。顔も無表情になっちゃったし、ちょっと怖いくらい。W大に受かったのにT大じゃないとダメなんだって。「馬鹿だよね、Wだってすごいのに」。ママにそう言った事があったら「一年だけくれって聞かないの。きっと学費がかからない国立に行こうとしてるのよ。あんたの為に」ってこっそり教えてくれた。それまですぐ「バカ私立のバカ女」「世間知らずの妹」ってすぐ私の事をバカにしてた嫌なお兄ちゃんだったけど、その夜は泣いた。
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