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「……り」
肩に触れる温かさ。
「いのり」
ゆっくりと目を開けると、彼が目の前にいた。窓際に座り、暇潰しに本を読んでいたはずが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
猫の雪も、側でまるくなっている。
「もうじき夏とはいえ、こんなところで寝ると風邪を引く」
「はい……」
同じ目線に彼がいるというのが新鮮で、ふにゃっと頬が緩んだ。
このひと以外何も要らない、なんて。それこそ夢物語だ。
でも現実しかない現実よりは、ずっといい。
「寝ぼけてる?」
緩んだままの僕の頬を、彼がふにふにとつまむ。
「むー……?」
何をされているんだろうと眉根を寄せると、彼がくすっと笑った。
「起きて」
やわらかさを確かめるように触れていた頬から指を離し、彼はそこに口付けた。
その仕草が、優しくて、温かくて。
ほら、やっぱり、夢かもしれない。
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