八月の微熱

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下世話な話も夜遅くの賑わうファミレスの中ではBGMみたいなもので、私たちに目をやる人なんて誰もいない。 「ねぇリズ、そんなに熱高かったの?」 信用金庫に勤める康代(やすよ)は目尻の涙を拭う。 「いつもの扁桃腺だよ。何日か前から痛かったんだけど、仕事が忙しかったのと秀くんに頼まれたモデルのバイトがハードだったの」 「ヘアモデルのバイト中に倒れて、秀くんが先生呼んだんだろ?」 私の話を補足したのは秀くんの弟分の弟。 ミートXLの次男坊の章司(しょうじ)。 昔から扁桃腺が腫れ易くて高熱に苦しむ私だけど今回は特別酷かった。 「ふーん。先生はあれから連絡ないの?」 布団屋の箱入り娘の志那(しな)がニヤニヤしながら康代の肩に寄りかかる。 「無いよ、ナイナイ。センセぇから連絡が来たことなんて一度もないよ」 黙って帰った私を心配する電話すらない。 私の初恋は壊れもせず実りもせず放置状態。 「追いかけてばっかりも、疲れたよ……」 ポロリと弱音が落ちた。
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