八月の微熱

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しばらくしてテーブルに戻ってきたリズの手にグラスはなく、その顔はいつになく思い詰めた表情を浮かべていた。 「私、今日はもう帰るね」 ここを出て公園で花火をしようと話していたのに。 それとなく二人きりにさせてくれと頼んでいた所なのに。 愛用のトートバッグを持ったかと思えば出口に向かって歩いて行く。 「待てよ、リズ…」 ガツ、ガツ、とテーブルの下で女二人からそれぞれ膝蹴りを受けて立ち上がろうにも痛くて背中を丸めた。 「「章司ぃッ!!」」 般若みたいな顔が二つ、顎をシャクり追いかけろと合図する。 「わ、わーってるンだけど…」 志那の尖ったサンダルといい、康代の逞しい厚底といい……明日は膝下が青字になってるぞ、これ。 「後で払うから、悪いな」 これ以上モタモタしてられねぇ。 サッカーで鍛えた俊足を生かす時がキタァ! ファミレスを飛び出してすぐにロータリーの前の信号に引っかかる。辺りを見渡しても既にリズらしき姿は見つからない。 焦りと気温の高さのせいで一気に汗が噴き出した。この時間まで遊んだリズが帰宅するのに使うルートは2つ。 商店街を抜けてアッサリ帰るか、回り道して菊池医院がある裏道を通るか。 「今日は……どっちだ?」 足止めを食らう俺は、夏の深夜にスピードを上げて走り抜ける車を睨みつけた。
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