八月の微熱

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ポケットの中から飛び出そうとする財布とスマホを気にしながら、リズの後ろ姿を探す。 「…ック、はぁ、はぁ」 最近サボり気味だったせいで息が上がるのが早い。 ちなみに、リズの父さんはサラリーマンだ。ウチみたいに年柄年中揚げ油にはまみれていない爽やかな人。 だから俺もリズの父さんみたいにスーツを着こなす仕事を選んで、リズに似た娘から「パパ」と呼ばれたい一心で俺は店を兄貴に任せて大手総合警備会社の営業マンになった。 もういい加減、リズを捕まえて拗れた初恋を清算したいワケよ。 紺色のTシャツは全体的にしっとりと汗を吸い、首筋を流れていく汗を吸いきれていない。麻混のお洒落ハーフパンツも汗で張り付く肌触りが気持ち悪い。 リズの片思いは鴨芽では周知の事実で、相手が相手だけに、それが実るだなんて誰も思っちゃいない。 夢から醒めたリズを受け止める役目は俺だと、口に出さずともみんな思ってるんだ。 兄弟の中で一番母親似の俺と母ちゃんにそっくりの美人のリズとの子供なら絶対に可愛いはず。 生まれ育った商店街は防犯灯を兼ねた等間隔の街灯で寝静まった通りの先まで見通せて、コッチじゃなかったか、と顔を歪めた。 乱れた呼吸は苦しくて、リズを探しにすぐに方向転換はできない。 自宅はすぐそこだし、シャワー浴びたら気持ちいいだろうなぁ…とよぎる。 悪魔の囁きか、天使の囁きか。 思い詰めたリズが先生の病院を訪ねる嫌な想像が脳裏に浮かんでカラカラに乾いた喉を引きつらせた。
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