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おれが大丈夫なわけがないだろ?
帰り道に長年温めた気持ちを伝えなきゃいけないんだから。
ほら、行こうぜ、と向かい合うリズに向けて手を伸ばしかけた時だった。まさかの展開に大きく目を見開いたのは俺だけじゃない。
「里珠」
普段の声より意識した声色を出すアラフォーは誰も呼ばないリズの名前を呼んだ。
見開いたリズの眼が小刻みに震えて、みるみる潤み始めた。
章司、どうしよう…
そう言いたいんだろ?
だけどさ、何て言えばいいか…俺もわかんないよ。
「里珠」
さっきよりも甘さを感じる声に呼ばれたリズは暗闇にいてもはっきりと分かるほどに肩を震わせて耐えるようにキツく目を伏せた。
「し、章司ぃ…」
そんな顔するなよ。助けてやるよ。
俺がお前を助けてやりたいよ。
この時間のこの距離で先生の表情なんて分かるわけないのに。金縛りに掛かったみたいに身体どころか呼吸すら上手く出来ない。
「ごめんね、章司……ありがとう」
何の謝罪で。何の感謝なんだよ。
俺を見上げるリズは手汗まみれの右手にマイメロを握らせて、見たことない表情で一歩一歩と後退していく。
「待て、よ……リズ」
切なげに小首を傾げて口元に笑みを浮かべるリズは、何も言わずに迷いなく先生へと身を翻して駆け寄っていく。
リズ…
お前、片思い実ってんじゃねーか。
身体でリズを受け止めた先生は当然のように越しを抱いて頭のてっぺんにキスを落とした。
マジかよ、アラフォー 。
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