君と声

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「君が好きだよ…」 ボソッと何かが聞こえた。 つぶやくように降ってくる綺麗な戸塚の声。 え? 今… 戸塚が喋った!? 好き?? え??? ええええ??? ど…どうしよう… 「わ…たしも…」 って… 私も喋った!? 私、声今まで出たこと無いのにって戸塚も喋ったことないのに! えええええ? 私は、頭が今真っ白になった。 いや、もう既に真っ白だったのか? 私の声… 私、声出たんだ… 今まで出たことなんて無かったのに… 私の声ってこんなにって、 いやまて戸塚もしゃべった? 初めて聞いた戸塚の声。 優しくて深みのある柔らかい声。 「君も…しゃべった?????!」 戸塚が呆然と私を見る。 明らかにお互い固まってしまっている。 先に動き出したのは戸塚だった。 戸塚はゆっくり花が綻ぶ様に微笑む。 本当に本当に綺麗な笑顔だ。 今まで見た中で多分一番… 思わずもう一度喋ろうとして身を乗り出すも声が出せなくてもどかしくなる。 そっと戸塚の裾をつかむともう一度息を深く吸い込んで声を出そうとしてみた。 やっぱり頑張っても声が出ない。 だから深呼吸をした。 少し落ち着いたみたいだ。 できる限り急いでカバンからボールペンを取り出すとメモに文字を書き私は戸塚にメモを差し出した。 『自分の声、びっくりした。もう出せない…どうやって出したのかも解らない』 戸塚はすぐ察してくれた。 「急には無理か…大丈夫。これからはずーっと僕がそばにいるからね。又君の声が聞けたら嬉しいな。」 戸塚は優しくゆっくり微笑む。 それはそれは嬉しそうに。 私は結局手紙を渡せないままその日が終わってしまった。 始終どきどきしてしまってどうやって家に帰ってきたのか良く解らない。 戸塚には、夜寝る前に知り合って初めて携帯にメッセージを貰った。 今まで友達だったのに 連絡先も交換していたのに 連絡が来たのは初めてだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加