プロローグ:彼女の本当のオリジン

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「俺は特別なんだって、両親がよく言ってた」それは一度だけ、無口な彼が私にしてくれた話だ。 「俺の母親は亜人だった」とかつて彼は言った。「それで、俺の父親は亜人じゃなかった。亜人と人間の子どもってのは、世界で俺だけなんだと。だから俺は特別らしい」  ふ、と彼は自嘲した。 「けど母さんは亜人だったから殺されたし、父さんは亜人じゃなかったから殺された」  それに続く言葉はしばらく出てこなかった。その横顔はがても寂しそうに見えて、私は思わず彼を抱き寄せていた。 「……俺が死ぬときは」聴いたこともない弱々しい声。「何を理由に殺されるのかな」  ――あれから5年経った。  5年経った今日、彼は撃たれた。 「たあん」という音が青空に響いて、そして彼が倒れた。遠くからでも赤い血がゆっくり広がっていくのが見える。 「嘘だ」と呟いた。死なないで、と思った。  私は走り出していた。発砲音で気の逸れていた警察の隙間を走り抜けて、倒れた彼に向かって走り続けた。ひょっとしたら、と思う。ひょっとしたらまだ彼は生きていて、どうにかすれば助かるかもしれない。  彼の姿が近づいてくる。あと少し、あと少し―― 「たあん」と言う音が、また、空に響いた。
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