一ノ瀬ツバサ:俯瞰鳥瞰アンド俯瞰

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 昼に起こした事件の筈だ。それでもテレビはその事件の事を夜まで垂れ流し続けていた。 『本日未明、4人の亜人が○○県のコンサートホールを襲撃しました。このテロにより死者が18名、負傷者が109名でています。――』  ――また4人、死んだのか。  テレビと言うメディアは、好きだ。理由の1つは情報が早いから。昔はテレビよりももっと早くに情報が伝わるナントカという物があったらしいけど、現在この国で最も情報を早く伝えられるのはテレビだ。早くに伝わることは素晴らしい。それを見るだけで、公開されている最新の情報を手に入れ、最新のアホを眺めることが出来る。  好きなもう1つの理由は、遠いからだ。この国で起こった凄惨な事件でも、テレビを通せばみんな他人事に感じられる。テレビを通すだけで、俺と情報の距離は、ぐっと遠くなる。 「襲撃した4人の亜人のうち2名はその場で射殺、1名は逮捕、残りの1名は依然逃走中です」  アナウンサーの言葉と俺の声が被る。暗記できるくらいに何度も同じことを言うから、身体と脳味噌が慣れてしまう。――ああ、そうか。まだ犯人の1人は逃走してるんだ。でもそれ、さっきも言ったよね……という具合に。  遠くに感じる、という事は客観的になれる事を意味している。世間のアホどもと違うし、アホの部下とも違う。この一連の事態に対して、俺は俺は遠くから、冷静に見つめていたい。中に入って大騒ぎするのではなく、だ。
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