一ノ瀬つばさ:運命の出会い・パート2

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 車は山奥へと走っている。交通量も少なくなって、道幅もやっと通れるかというくらいの広さ。もしも50センチ――ううん、30センチ右にズレたらこの車は私達ごと谷底に真っ逆さま。もしそうなったとしても、五藤さんの絵は何とかして外に投げよう。燃やしちゃったら申し訳ない。  そう思って、五藤さんが書いてくれた私の絵を見る。そうすると私って烏の亜人なんだよね、と改めて実感した。黒い羽が伸びていて、何かを指差しているようにも見える。絵の事はよく分からないけど、この絵はすごく綺麗だと思った。  それから自分の両腕(両羽?)と絵を見比べる。艶やかな黒。シャンプーのコマーシャルで見るような髪の毛みたい。五藤さんが言ってくれたからそう思えるんだろうけど、綺麗な羽だ。 「まだ信じられずにいますか?」  運転席をしながら大神さんが私に訊いた。バックミラー越しに目が合った。 「い、いえ」  私の声はひっくり返った。亜人の人と二人で車に乗るなんて今までなかったから、身構えてしまう。私も亜人だけど。 「えっと、あの、綺麗だなと思って、羽が」 「それはよかった」  大神さんはそれだけしか話さなかった。  ――気まずい。一言でいうとそんな雰囲気のまま車は狭い山道を通っていく。道が舗装されてなくて、がたがたと音を立てて車が揺れる。寝ようと思ってもこれじゃ無理。かと言って大神さんと話すには、話題がないというか、後ろめたさというか、気軽に話しかけてはいけないと思っている私がいる。  ――っていうか、亜人になりたい人なんているんですか?  こんな事をいった私が、亜人の人と気軽に会話するなんて、気を悪くさせてしまいそう。亜人になった途端手のひらを返すなんて、何ていうか、フセージツだ。イソップ童話のコウモリみたいだ。
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