第1章

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「うーん、どれにしようか……」  融(とおる)が真剣な眼差しでパソコンの画面を睨んでいる。  今月の連休、二泊三日で旅行に行こうと約束したのだ。その宿選びを融に任せたのだが、なかなか決まらない。  翔太は旅行ガイドを見ながら行きたい場所に○を付けて、辿りやすい順に並べたものをメモに書き写したところだった。  行程は全て翔太が運転する車でこなす。ドライブも兼ねた初の旅行だった。  正直白状すれば、つきあいだして初旅行になる。  キスをして触り合って、それ以上はまだない。もしかすると、ずっとないかもしれないが、ゲイカップルにとって別段それは珍しいことじゃない。  融はほかの男性と何度かつきあったことがある。経験もあるらしい。翔太は融が初めてつきあう男性だった。 「なに悩んでるの?」  翔太が融の背を見て聞いた。  融がインターネットエクスプローラーにいくつかタブが並んでいる。それを切り替えては眺め、また切り替えては眺めしている。 「なにやってるんだよ?」 「重要なこと」 「重要なこと?」  翔太は融の肩にあごを乗せ、訊ねた。融が頭を翔太にくっつけながら答えた。 「洋室にするか、和室にするか」 「あー、そういうこと」  翔太は納得した。布団の上げ下げとかいろいろ考えると、和室より洋室が好きだった。 「洋室がいい」  しかし、融が渋い声を出した。 「洋室はなぁ、部屋が狭いし、すぐに横になったときに思うとおりにいちゃつけないし……、ああ、でもスプ リングがついてるから、腰には来ないかもしれないし……」  何のことかわからず、翔太は融の鼻筋を眺めた。 「和室はすぐ組み敷けるし、何と言っても広いからどんな体位も取れるし……、でも布団は床が硬いから腰に来る……」  何事も「腰」が重要らしい。 「もしかして、エッチのこと?」  すると、画面を眺めていた融が真剣な表情で翔太を見つめ返した。怖いくらいに目が据わっている。 「な、なに!?」  翔太がひるんで身を退くと、翔太の腕を融がつかんで、言った。 「重要じゃないか。翔太とエッチする初めてのチャンスだぞ!」 「でもさっきからなんで腰なんだよ」 「そりゃ、上になったら、膝建ちにもならなきゃいけないし、横になっても腰は動かさなきゃいけないし、もしかすると持ち上げてしないといけないかもしれないし」  翔太が顔を赤くして叫んだ。
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