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「うーん、どれにしようか……」
融(とおる)が真剣な眼差しでパソコンの画面を睨んでいる。
今月の連休、二泊三日で旅行に行こうと約束したのだ。その宿選びを融に任せたのだが、なかなか決まらない。
翔太は旅行ガイドを見ながら行きたい場所に○を付けて、辿りやすい順に並べたものをメモに書き写したところだった。
行程は全て翔太が運転する車でこなす。ドライブも兼ねた初の旅行だった。
正直白状すれば、つきあいだして初旅行になる。
キスをして触り合って、それ以上はまだない。もしかすると、ずっとないかもしれないが、ゲイカップルにとって別段それは珍しいことじゃない。
融はほかの男性と何度かつきあったことがある。経験もあるらしい。翔太は融が初めてつきあう男性だった。
「なに悩んでるの?」
翔太が融の背を見て聞いた。
融がインターネットエクスプローラーにいくつかタブが並んでいる。それを切り替えては眺め、また切り替えては眺めしている。
「なにやってるんだよ?」
「重要なこと」
「重要なこと?」
翔太は融の肩にあごを乗せ、訊ねた。融が頭を翔太にくっつけながら答えた。
「洋室にするか、和室にするか」
「あー、そういうこと」
翔太は納得した。布団の上げ下げとかいろいろ考えると、和室より洋室が好きだった。
「洋室がいい」
しかし、融が渋い声を出した。
「洋室はなぁ、部屋が狭いし、すぐに横になったときに思うとおりにいちゃつけないし……、ああ、でもスプ リングがついてるから、腰には来ないかもしれないし……」
何のことかわからず、翔太は融の鼻筋を眺めた。
「和室はすぐ組み敷けるし、何と言っても広いからどんな体位も取れるし……、でも布団は床が硬いから腰に来る……」
何事も「腰」が重要らしい。
「もしかして、エッチのこと?」
すると、画面を眺めていた融が真剣な表情で翔太を見つめ返した。怖いくらいに目が据わっている。
「な、なに!?」
翔太がひるんで身を退くと、翔太の腕を融がつかんで、言った。
「重要じゃないか。翔太とエッチする初めてのチャンスだぞ!」
「でもさっきからなんで腰なんだよ」
「そりゃ、上になったら、膝建ちにもならなきゃいけないし、横になっても腰は動かさなきゃいけないし、もしかすると持ち上げてしないといけないかもしれないし」
翔太が顔を赤くして叫んだ。
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