第1章

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 やつが風呂に入った。どうも浮気してるみたいで、四六時中携帯弄ってる。俺が見ようとしたら絶対隠す。  怪しい。  この前隠れて見てみたら、パスワードがかかって中が見られなかった。  あれからずいぶんかかったけど、やつのパスワードの法則を割り出してやった! 自分の誕生日の数字を並び替えたものだ。何通りかあるけど、目星は付けた。  俺とやつ――京(けい)吾(ご)がつきあいだしたのは、三ヶ月前。良く行くバーで、意気投合して酔った俺はお持ち帰りされた。俺はシフトが夜と昼とまばらな仕事なんで、夜会えないとき、京吾が何をしているか分からない。  いつも出掛けているのは分かっている。それはチェック済みだ。俺には酒や食い物で仲間を裏切るやつを死ぬほど知っている。  京吾の行きつけのバーで聞くと、人は会いに来ないが、ずっと携帯をしながらにやけているらしい。二時間したら出て行き、その後は誰も知らない。もちろん朝帰ってくる俺にも分からない。  さぁ、パスワードが分かった。携帯を見てみる。メールを調べるが、みんな知り合いのやつを裏切った仲間の名前しかない。  まさか、カモフラージュに女の名前を使っているのか? とも思ったが、どれも知った名前だし、やつは女に興味はない。  携帯をあれこれ見ているうちに、俺はあることに気付いた。  京吾の携帯はゲームアプリがひしめいている。それも、女向けの乙女ゲームだ。「ホスト」「幕末」「上司」「イケメン学園」いろいろ。  試しに一つ起動させてみた。 「けいご、待ってたのに、連絡もよこさないなんて、いけない子だね」  画面のホストが音声で喋った。別のアプリも起動させた。 「ああん、けいごー、おれ、まちくたびれたよー」  画面の後輩がかわいい顔で甘えてくる。もちろん音声付き。  ほかのも見てみる。 「けいご、よもや逢い引きの時刻を忘れたとは言わせぬぞ」  いい声の独眼竜政宗が睨みを利かせている。  どれもこれも、かなりいい感じの出来具合で、ラブラブ度もほぼ百パーセントだ。  俺はアプリを終わらせ、携帯を閉じた。  あとどのくらい京吾と付き合いを続けるか、ちょっと考えることにした。
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