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「コーちゃん、ねーってばー」
ミノルが俺の腰にまとわりついてくる。頭の悪い喋りかたはいつものことだ。
コウスケは先ほど帰宅したばかりで、買ってきたほか弁を食べながら新聞を読んでいるところだ。
すでに夜の十時を過ぎている。平日のコウスケのスケジュールはいつも忙しく、予定が詰まっている。このあと風呂に入ったら、速攻に寝て、明日は六時に出勤だ。
それにしてもなぜミノルがここにいるんだろう。泊まりに来るのはいつも週末と決まっているはずだ。だから合い鍵を渡したのに。
「ねぇってば、コーちゃん、シンブンよんでないであそぼうよー」
ミノルの「あそぶ」はイコールセックスのことで、コウスケのセックスはしつこい。始めれば四時間は終わらない。そうなると風呂にも入らず夜中の二時まで続くことになり、シャワーを浴びて寝て起きても三時間半しかミノルには残されないことになる。
「駄目」
瞬時の計算のあと、コウスケは答えた。
「けちーけちーどけちー」
「お前は子供か! いくつになったと思ってるんだ」
「さんじゅっさいでーす」
ミノルが明るく答えた。どう見ても三十歳の話し方ではない。
ミノルはコウスケと同い年の三十。三十路だ。
コウスケが中堅の会社のサラリーマンで、ミノルはフリーターをしながらのフリーライターだった。遊んでるわけじゃないのは分かっているが、こうも生活時間に差があると、コウスケから見れば、ミノルは不安定な生活をしているようにしか見えない。
で、しかも、現在、約束の日付も守らず、気まぐれにやってきて遊ぼうとか抜かしている。
「俺は明日会社が早いんだよ。いつも言ってるだろ、平日は遊べないんだよ!」
「おれはねー、ひまー。だからきたんだよ」
ミノルがにこっと笑う。三十のくせに見た目だけは若い。かわいい愛嬌のある顔で笑われると、思わずほだされそうになってしまうのが、惚れた弱みだ。
「俺だって遊びたいよ。でも駄目なの!」
ミノルがぶーぶー文句を言いながら、ホカ弁を食べているコウスケのベルトをはずしにかかった。
「止めなさい」
冷静に浩介が言った。
「やーめーなーいー」
ひらがなで馬鹿っぽく話すミノルがうざいようでかわいい。駄目だと言いながら払う手にも力が入らない。
とうとうトランクスからそれを取り出したミノルが舌先でなめ、しゃぶりついてきた。
「しょっぱーい」
「だから止めなさい!」
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